『天気の子』陽菜(ヒナ)が空から帰ってこれた理由を考察

はじめに

今回は、『天気の子』で陽菜(ヒナ)が生きて地上に帰れた理由について考察します。
結論は、「陽菜(ヒナ)が戻りたいと思えたから」です。
理由を順に見ていきましょう。

天上に向かう直前、陽菜(ヒナ)の心はかなり暗い状態だった

まず、陽菜(ヒナ)が天上に向かう直前の気持ちを追ってみると、ホテルに入るまでに、陽菜(ヒナ)の心はかなり暗い状態にありました。

そう言える理由は、三人の移動中に夏にもかかわらず雪が降るシーンで、「この天気と陽菜(ヒナ)さんが、つながっている」という帆高(ホダカ)のモノローグにあります。

陽菜(ヒナ)と空がリンクしているとしたら、この雪は追い詰められた陽菜(ヒナ)の心と結びついていると言えるのではないでしょうか。

このシーンで陽菜(ヒナ)は、児童相談所と警察から追われ、弟の凪(ナギ)と引き離されるかもしれないという恐怖を感じていました。

金銭面で頼みの綱だった「天気を晴にする仕事」も、陽菜(ヒナ)の体を代償にすることが発覚し、続けられなくなっていました。
帆高(ホダカ)も警察に追われていて、捕まればすぐに離れることになります。

このように追い込まれている状況で、陽菜(ヒナ)の心はかなり暗く、絶望的な気持ちだったのではないでしょうか。
それが、雪という寒く、生物たちの活動を停止させるような寂しい天気になって現れたのではないかと思います。

陽菜(ヒナ)は自分から生贄になることを望んだ

このように、すさんだ気持ちでいる陽菜(ヒナ)は、何らかの理由で、例えばネット記事などで天気の巫女の役割を知っていたのでしょう。

それは、自分の身と引き換えに、天気を晴れにすること、でした。

精神的に追い込まれていた陽菜(ヒナ)は目の前の現実に絶望し、天気の巫女の役割を果たすべきか、力を捨てて東京を雨に沈めるかの選択を迫られたときに、前者の自分を生贄に捧げる方を選択したのではないでしょうか。

追い打ちとなった帆高(ホダカ)の返答

陽菜(ヒナ)は天上に連れ去られる直前に、帆高(ホダカ)に「帆高(ホダカ)は東京の天気が晴れになってほしい?」
と問い、帆高(ホダカ)はそれに対して、「うん」と返答するシーンがあります。
帆高(ホダカ)のこの返答の瞬間、部屋の電灯が切れ、それまで明るかったムードは一転。
陽菜(ヒナ)は自分の体が消えかかっていることを帆高(ホダカ)に示しました。

陽菜(ヒナ)が、帆高(ホダカ)にわざわざ確認をしたということは、帆高(ホダカ)の返答によっては、別の選択をする余地があったのではないかと推測できます。
つまり、もし帆高(ホダカ)が「東京の天気は雨でもいいよ」と答えたなら、陽菜(ヒナ)は自分が消えてまで世界を晴れにしなくてもよいのでは、と思ったかもしれないということです。
みんなだけではなく好きな人も東京の天気の晴れを望んでいるのだったら、自分の命は差し出してしまおう、と思ったのではないでしょうか。

陽菜(ヒナ)が帰れた理由

私は陽菜(ヒナ)が帰れた理由がどうも腑に落ちなかったのですが、もし上に書いたように陽菜(ヒナ)が自ら望んで生け贄になったと仮定すると、陽菜(ヒナ)が天上から帰れた理由に納得がいきます。

それは、「陽菜(ヒナ)自身が帰りたいと望んだから」です。

上で書いたように、陽菜(ヒナ)は目の前の現実に絶望して天上に向かったのだとすると、帆高(ホダカ)が天上に乗り込んで陽菜(ヒナ)に対して、「君が大事だから、東京の天気なんてどうなってもいいから生け贄にはならないでほしい」というメッセージを伝えることで、陽菜(ヒナ)は生きていくことに希望を持ち、地上に帰りたいと望み、結果として地上に帰ることができたのではないでしょうか。

まとめ

今回は、「陽菜(ヒナ)が自ら望んで天上に行った。従って、天上から帰れた理由は、帰りたいと思うことができたからではないか」という考察をしてみました。
自分を思ってくれる誰かがいてこそ、人はどん底にあっても希望を持てるのかもしれません。 それでは、また。

この記事を書いた人

都内私立大学を卒業→大学院進学→メーカーに就職←イマココ、のアラサーブロガー。高校3年生の現代文の授業で、『舞姫』(森鴎外)の解説を受けてから文学にハマり、以降文学書を読み漁る。好きな作家は村上春樹、夏目漱石、太宰治。
いろんな作品の考察や感想を書いていきます。たまに書評も。

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