新海誠監督作品を考察 「巨大な力」の変化~時間・距離から、自然へ~

今回は、新海誠作品に共通して描かれるモチーフ「巨大な力」と「大人の敵」について考察します。

新海誠監督の作品の「巨大な力」と「大人の敵」

作品名巨大な力大人の敵
ほしのこえ(2002)時間、距離、大儀
秒速五センチメートル(2007)時間、距離
言の葉の庭(2013)女教師
君の名は。(2016)隕石父親
天気の子(2019)天気、(お金)編集長(代理父)、警察
すずめの戸締り(2022)地震、津波おば(代理母)

表に新海誠監督のこれまでの作品と、作品内の「巨大な力」と主人公が対立する「大人の敵」を並べてみました。
新海誠監督の作品は、「巨大な力」か「大人の敵」またはその両方がすべての作品で出てきています。

「巨大な力」の変化~時間・距離から、自然へ~

表を見ると、「巨大な力」が『君も名は。』(2016)を境に変化していることが分かります。

すなわち、『君の名は。』以前は抗うことのできぬ「巨大な力」は、時間・距離だったのに対し、『君の名は。』以後は、それが隕石・天気・地震といった自然(災害)へと変化しています。

秒速五センチメートルは公開が2007年でした。
巨大な力が自然へと変化した最初の作品である『君の名は。』の公開が2016年です。
『すずめの戸締り(2022)』が東日本大震災をモチーフにしている点も踏まえると、2011年の東日本大震災を受けて、新海誠の描く巨大な力は、距離・時間から自然へと変化したのかもしれません。

「巨大な力」と「大人の敵」が統合された『君の名は。』以後の作品たち

『ほしのこえ』と『秒速五センチメートル』では、主人公たちと、時間や距離という巨大な力の対比が描かれていました。逆に、「大人の敵」すなわち大人との対立はテーマとしては描かれませんでした。

また、『言の葉の庭』では、女教師との「大人という敵」との対立が出てきます。
『言の葉の庭』では他にも靴職人を目指す主人公に対し「子供の夢なんて続かないさ」と冷めた批評を加える大人も登場します。
「巨大な力」というよりは「大人という敵」が描かれています。

これらの「巨大な力」と「大人の敵」の両方の要素が、『君の名は。』以降の作品には表現されており、これまで各作品でバラバラに出てきていた両者を統合することに成功していると言えます。

「巨大な力」時間・距離の壁を克服した主人公たち

『ほしのこえ』(2002)と『秒速五センチメートル』(2007)では、主人公の男女は時間・距離に引き裂かれてしまいます。
しかし、『君の名は。』(2016)では、主人公の立花瀧は、岐阜県に住む少女三葉と入れ替わり、過去にタイムリープして命を救うことに成功しています。
また、『すずめの戸締り』(2022)では、『全ての時間が流れる場所』と言われる『常世(とこよ)』で、ヒロインの鈴芽は主人公の草太を助け出したり、過去の自分を救います。

こうしてみると、新海誠監督は、『君の名は。』(2016)を境に、時間・距離に翻弄される主人公から、時間・距離を克服する主人公へと、時間・距離―主人公との関係性を変化させていると言えます。

まとめ

今回は、「巨大な力」と「大人という敵」という点で、新海誠作品を分析してみました。
今年(2022年12月執筆時点)に公開された『すずめの戸締り』は震災を風化させないという強い思いを感じる、大切な作品だと感じました。
今後の新海誠監督の作品もとても楽しみです。

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君の名は。は東日本大震災がモチーフ?

この記事を書いた人

都内私立大学を卒業→大学院進学→メーカーに就職←イマココ、のアラサーブロガー。高校3年生の現代文の授業で、『舞姫』(森鴎外)の解説を受けてから文学にハマり、以降文学書を読み漁る。好きな作家は村上春樹、夏目漱石、太宰治。
いろんな作品の考察や感想を書いていきます。たまに書評も。

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