夏目漱石『こころ』の名言5選

名言

こんにちは。

今回は、夏目漱石の『こころ』の名言5選について書いていきます。

はじめに

『こころ』は1914年に夏目漱石が47歳で書いた代表作です。

一人の青年が恋愛をきっかけに親友を裏切り、追い詰めてしまうストーリーで、恋愛という身近なテーマながら人間の本質的なエゴイズムを鋭くえぐり出した作品です。

100年前の作品ですが、現代を生きる私たちに向けて書かれているようにさえ感じられる、普遍的な内容の作品といえます。

今回は、そんな『こころ』から筆者が名言を5つ選出し、ご紹介します。

※()内の数字は章番号を表します。

名言1 しかし…しかし君、恋は罪悪ですよ・・・

「しかし…しかし君、恋は罪悪ですよ。わかっていますか。」
出典:夏目漱石『こころ』(12) p39

「恋愛」を通して唯一無二の親友を追い詰めてしまった先生の過去から生まれる言葉ですね。

恋というのは幸せで楽しい面もありますが、とても強く感情を動かすので、危険な面もあります。

一歩間違えれば、嫉妬の炎に心を焼かれ周りの人を深く傷つけてしまうことになります。

先生は、まだ若く「恋」のプラスの面ばかりに目がいき、危険性に目を向けられていない主人公に対し、警告したかったのでしょう。

名言2 そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。

しかし悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざというまぎわに、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです。
出典:夏目漱石『こころ』(28)p81

これは、まず当てはまるのは先生の叔父さんですね。

先生の叔父さんは、昔から先生によくしてくれていました。

また、先生の死んだ父親も叔父さんのことを大変褒めていました。

そういう「善人」であった叔父さんが、金に目がくらんで先生の父親の遺産を盗んでしまったのです。

信頼していた叔父さんに裏切られた先生は、大きな心の傷を負ったでしょうね…

さらに、急に悪人に変わるのは叔父さんだけではないです。

それは、先生自身のことをも指していると思われます。

先生は、親友「K」の神経衰弱を救うために自分の下宿している家にKを招きました。

これはれっきとした「善人」の行動です。

しかし、その後で好きな女の子の奪い合いになり、「K」を深く傷つけ追い詰めてしまいました。

「いざというまぎわに、急に悪人に変わ」ったのは、先生でもあるのです。

先生は、叔父さん、そして自分自身を通して人間への信頼を失ってしまったのですね。

名言3  もう取り返しがつかないという黒い光が、私の未来を貫いて・・・

もう取り返しがつかないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯をものすごく照らしました。
出典:夏目漱石『こころ』(48)p279

これは「K」の変わり果てた姿を見つけた瞬間の先生の胸の内です。

Kの死をきっかけとして、先生の人生は未来永劫暗く塗りつぶされてしまいました。

「恋は罪悪」と先生は言いましたが、やはり罪悪は他者を傷つけるだけでなく、同時に「罰」や「罪悪感」というかたちで、自分自身も深く傷つけるものですね。

名言4 精神的に向上心のないものは、馬鹿だ

「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」
出典:夏目漱石『こころ』(41)p261

先生が「K」のお嬢さんへの恋心を打ち明けられた後、「K」を追い詰めた台詞ですね。

これはかつて「K」が、恋に浮かれる先生に対して放った言葉であり、先生がこれをやり返すブーメランの形になっています。

また、「K」は住職の息子として生まれ、欲を絶って「精神的な向上」に命をかけていましたが、お嬢さんへの恋心を抱いてしまい、苦しんでいました。

そんな「K」にとっては、致命的な一言となりました。

名言5 かつてはその人の膝の前にひざまずいたという記憶が、今度はその人の頭の上に足を載せさせようとするのです

かつてはその人の膝の前にひざまずいたという記憶が、今度はその人の頭の上に足を載せさせようとするのです。
出典:夏目漱石『こころ』(14)p44

先生のことを尊敬する主人公に対し、先生が「あまり私を尊敬しないでくれ。後になって、どうせ私を見下すだろうから。尊敬した側は、いずれ必ず仕返しに見下そうとしてくるものだ」という意味で言ったものですね。

これは、先生自身が、かつて尊敬していた親友「K」のことを追い詰めてしまった過去に由来しています。

先生は、自分自身の過去から「人間とはこういうものだ」という真理を見いだして、それを主人公にも当てはめて、こんなことを言ったのでしょうね。

「尊敬した側は、いずれ必ず仕返しに見下そうとしてくる」とは、ずいぶんひねくれた考え方にも見えますが、人間の一面を捉えてはいるかもしれません。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回は夏目漱石『こころ』の名言を5つご紹介しました。

筆者の好きな作品なので、今後別の名言も紹介できたらと思います。

参考文献

『こころ』夏目漱石、角川文庫、昭和26年

この記事を書いた人

都内私立大学を卒業→大学院進学→メーカーに就職←イマココ、のアラサーブロガー。高校3年生の現代文の授業で、『舞姫』(森鴎外)の解説を受けてから文学にハマり、以降文学書を読み漁る。好きな作家は村上春樹、夏目漱石、太宰治。
いろんな作品の考察や感想を書いていきます。たまに書評も。

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